佐々陽太朗のチャリチャリ日記

人生いたるところに夏休みあり。佐々陽太朗の自転車日記。60歳と6ヶ月で仕事をリタイア。目指すはピンピンコロリ。死ぬまで元気なジイサンでいたい。輪行自転車旅、ポタリング、日々のトレーニングなど。

チャリンコで東北へ(9日目は藤沢周平ゆかりの鶴岡で美酒を)

2024/04/04

 チャリンコで東北へ行く旅、9日目は丸一日鶴岡で過ごした。まずはなんといっても「藤沢周平記念館」。午前中をここで過ごした。

 入ってすぐ小説の場面にちなんだ風景写真がモニターに映し出される。すべて庄内地方のもののようだ。美しい。藤沢作品を読むとこうした古き良き日本の風景を思いうかべることができる。そしてそうした風景は今も山形に、この庄内地方には残っている。次に藤沢の小説世界の紹介。時代小説、歴史小説、伝記小説、随筆・俳句といった分野ごとに魅力を解説してある。藤沢小説の魅力は何といっても時代小説だろう。それも下級武士や市井に生きる人々の矜持や心意気を描いたものが良い。解説を読みいちいち頷いた。東京練馬区にあった自宅から移築し再現した書斎も展示されていた。パーカーの中細万年筆、インクはブルーブラック、原稿用紙は市販のコクヨ、など会ったことのない藤沢氏を身近に感じることができた。心温まった展示が湯田中中学校での教え子たちとのクラス集合写真や奥様、お嬢様と砂浜に腰掛けた家族写真。ほんわか微笑ましい。奥様、お嬢様との家族写真は直木賞を受賞したころのもの。藤沢氏とて順風満帆の人生だったわけではない。中学は働きながらの夜間部だったし、師範学校卒業後教師になったのも束の間、肺結核を患い闘病生活、恢復しても教師への復帰はかなわず東京で職を転々とした時期もあったという。それだけに直木賞をとったころの家族写真が幸せに満ちているように映った。藤沢作品はほぼ全て読んだつもりでいたが、館をまわってみて、やはり未読のものが見つかった。『春秋山伏記』である。館で買いもとめることができた。

 昼食は『庄内ざっこ』で「麦切り」を食した。「ざっこ」とは庄内の言葉で魚のことなのだとか。では「麦切り」とは何か。昔は各家庭で麺を打って食べており、そば粉を練って切ったのを「蕎麦きり」、小麦を練って切ったのを「麦きり」と呼んだ。庄内地方では小麦を育てている農家も多かったらしい。つるりとした細麺でコシがある。「麦切り」ができあがるまで、山形の酒を利き酒。まずは「大山 特別純米酒 十水 大にごり」。口に含むとボリュームがあって優しくクリーミーな味わい。ガス感が残っており舌にピリッとくる。酸味もあり後口は意外とさっぱり。続いて「上喜元 神力」。酒米の神力は兵庫県御津町発祥の米。「龍力」(本田商店)ではなじみの酒米だが、まさか山形で出会うとは。ほどよい甘みとスッキリとした酸。いくらでも飲んでしまいそうな飽きの来ない味。最後に「栄光冨士 純米大吟醸 無濾過生原酒 愛山」。「愛山」も兵庫県産の酒米。甘めの酒を醸す好適米だ。これはラベルも華やかだが、味も華やかな酒。派手好きにはたまらない酒だろう。食前にちょいと飲むといいかな。

 昼から酒を飲んでしまったので、午後は自転車を控えた。旅行中に髪の毛が伸びむさ苦しいと感じていたので床屋に行き散髪とシャンプーをしてもらった。夕方から居酒屋を予約しているので、それまでホテルで洗濯。衣類をすべて洗って心身ともにさっぱりした。

17:00 予てより行きたいと思っていた居酒屋『いな舟』で飲む。時間帯が早いので、女将と一対一で話ができた。なかなかできない経験でありがたかった。

 まずは「大山 純米 十水」。鶴岡の酒だ。芳醇でふくよかな味。食中酒として抜群です。こちらでも昨夜の「みなぐち」と同じくお通しは「エゴとウルイの酢みそ和え」が出てきた。どうやらこの辺りの居酒屋で春の味のようだ。

「十水」をすいすい飲みきってしまった。続いても鶴岡の酒、冨士酒造の「純米酒 生酒 なまいき」(300ml)。刺身は白身の三種。鯛、平目、鱸かな。「ばんけ味噌」「野人参のごま和え」「青菜(せいさい)の煮びたし」も出してもらった。「ばんけ味噌」はフキノトウを味噌に和えたもの。野人参はどんなものかと訊ねると、山に行くといくらでも生えているそうだ。青菜というものを知らなかったのでどんな菜なのか訊いてみると、高菜に似たかたちをしているがもっと大きく、高菜よりもやわらかいらしい。庄内地方では秋にたくさん漬けて冬の間食べるらしいが、春になると発酵が進んで酸っぱくなるのだが、水につけて塩抜きして煮るとおいしいのだとか。こうした地方色がある家庭的なものがうれしい。

 春告魚「目張の煮付け」も注文。

 もう一種、鶴岡の酒をと「出羽ノ雪 IGO(イ号) 特別純米酒」を注文。フレッシュな飲み口、甘めでやわらかい酒でした。

 〆に「孟宗汁」をいただく。まだこの時期の鶴岡にタケノコは生えていないが、九州のものを使っている。タケノコ、油揚げ、しいたけなどを酒粕と味噌などで炊いた汁。この地方の郷土料理だ。

 女将とゆっくり話をし、庄内地方の郷土料理に舌鼓を打ちながら地酒を飲む。思いがけず贅沢な時間を過ごすことができた。鶴岡に二泊して『いな舟』におじゃました甲斐があった。