2024/03/30
チャリンコで東北へ向かう旅、4日目は福井から金沢まで走った。天気は上々。道は平坦。もっと先まで走れなくもないが金沢には行きたい寿司屋がある。めざす東北はまだまだ先だが、なに到達できなくとも誰に迷惑をかけるわけでもない。うまい酒、うまい寿司、今日一日を楽しむ。それだけだ。
走ったルートは下の地図のとおり。車は多いが広く走りよい道がほとんど。高度グラフにあるように、大きな峠もない。ゆっくり走って走行距離約83km。総上昇量297mであった。
6:30 福井を出発。福井城跡の桜は未だつぼみのまま。
6:40 朝食に『吉野家 福井大手店』に立ち寄る。未だ閉まっており、開店時間は7時であった。椎名誠氏のエッセイを読みながら開店を待つ。
7:00 開店時間ちょうどに店の入り口に行くと、80歳ぐらいのジイサンが私の横に並んだ。この辺りの人のようで、一人暮らしで朝メシを食べに来たふうである。私がドアを開けると、さっと横入りして先に入った。なんだ、なんだ? このジジイ入店一番乗りを競っているのか?? 俺はドアボーイじゃないぞと思いながら店に二番手で入る。さきほどのジジイは手慣れた様子でセルフサービスの水をグラスに注いでいる。私は店のいちばん奥、窓際の席に荷物を降ろし腰掛けた。するとさきほどのジジイはなんとすぐ私の隣の席に座るではないか。開店直後で客は私とそのジジイ二人だけである。普通、私とは対角線反対側の席あたりに座ろうとするのではないか。同じ側に座るにしてもすぐ隣りではなく、テーブル一つ空けて座るだろう。私は別の席に移動しようかと思ったが、なんだかそれも癪だ。そのままにしていた。
店員のうら若き娘がお茶を持ってきて、まずそのジジイの注文を訊く。ジジイは常連なのだろう。メニューも見ずにすらすら注文する。娘は私の注文も訊くとお支払いは別々ですかと尋ねる。私をそのジジイの連れだと思っている。そりゃそうだろう。未だ二人だけの客が隣り合わせて座っているのだ。勘違いするのも無理はない。きっぱりと「別で!!」と宣言した。
注文したのは牛丼あたまの大盛りとお新香のセット。味噌汁も付いている。紅生姜はテーブルに備えてあるものを自分でトッピングする。私はいつも山盛りにする。そしてご飯と肉、紅生姜を一緒にワシワシと頬ばって食べる。すると先に肉と紅生姜がなくなってしまい、丼に半分ぐらいの飯が残る。その飯もつゆがかかっておいしいのだが、もう一度紅生姜をたっぷり載せる。吉野家にすれば原価の高い歓迎すべからざる客、それが私である。自覚はあるが、それをやめる気はない。
牛丼を食べていると、店には次々と客が入ってきて店内は十数人になった。ドライブスルーの注文も入っている様子。しかし店員の姿はさきほどのうら若き娘ひとりしか見ない。その娘の声しか聞こえない。ドライブスルーの注文もその娘が対応している。なんとたった一人でこの店を切り盛りしている。ひょっとしたら今日は相方が急に休んでしまったのかもしれない。次から次に来る客にお茶を出し、注文を訊き、給仕する。会計もやる。すごいぞこの娘。拍手(^-^)//¥¥ぱちぱちものである。私なんぞ、日がな一日チャリンコでうろつき、腹が減ったと言ってはあれこれ見境なく食べ、喉が渇いたと言ってはビールをぐびぐび飲み、疲れたと言ってはベッドで大の字になって寝ているバチ当たりだ。この娘は朝早くから独楽鼠のごとく働いているではないか。なんとけなげな。私は恥ずかしい。私も少しは生活態度を改めねばならぬなと考えかけたがすぐに忘れることにした。せめてもの償いにと「神よ、吉野家の社長よ、この娘にこの春、大幅賃上げを!」と心の中で3回祈った。
7:50 九頭竜川を渡る。
小松方面へ向かう道は広く走りよい。
10:00 『ファミリーマート加賀伊切町店』で糖分補給。
小松に入ると道はさらに走り良い。小松から加賀へは健民自転車道と銘打って自転車が走りやすい道路になっている。
小松市安宅新町から金沢市佐奇森町まで約24km、海岸線を走る自転車道が整備されているが、「通行止め」の表示。かまわず走ってみるが、しばらく走ると冬の荒波に運ばれた砂が堆積してタイヤがめり込んでしまう。いかにグラベルロードとはいえ、これは危険と一般道に戻る。
11:20 手取川を渡る。
12:40 金沢駅に到着。駅地下に駐輪場があった。ここも敦賀と同様に無料。無料だから駅周辺の路上駐輪が減るのだろうなぁ。
何はともあれ駆けつけ三杯。金沢駅構内に最近オープンしたらしい『SAKE食堂 by 農口尚彦研究所』での立ち吞みだ。農口尚彦氏といえば酒造りの神さま。料理をおいしくいただくための酒。山廃造りを極めた方だ。ありがたくテイスティングさせていただいた。
ほろ酔い気分で駅近くのホテルにチェックイン。夜になって夕食に出かけた。今宵は金沢駅のすぐ東にある『本店 加賀 彌助』。ちょいとした贅沢だ。
店に入るとカウンターに案内された。カウンターの中で庖丁を握るのは親父さんとお嬢さん。娘さんかどうか知らないが、キリッとした感じの美人だ。店に居る間、何度も外国人観光客が来たが、満席なので断っていた。英語が堪能な様子である。
酒は「加賀鳶」。お通しに「ホタルイカの沖漬け」がでてきた。やはりうまい。酒がすすむ。
「バイ貝塩焼き」 これまた乙です。酒がさらにすすむ。農口尚彦さんの酒を注文した。
カウンターの中のお嬢さんが「なにか刺身にしましょうか」と訊ねてくれた。「三種ばかり見つくろってください」とお願いした。鰤、オキスズキ、鯵。オキスズキは初めて食べた。白身に上品な脂がのっている。ほんのり桜色が美しい。臭みがなく見た目以上にしっかりとした歯ごたえ。よく噛むと旨味が口中に拡がる。うまい魚だ。
あとはお任せで握ってもらった。どれもすばらしくうまい。出されるとすぐに口に運びたくなり、二つ三つ写真を撮り忘れた。一番最後まで居させてもらい、大満足で店を後にした。